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ロジカルシンキング「MECE」の限界【データ活用時に発想力でライバルに勝つ方法】

ビジネス

ロジカルシンキングの分野に『MECE』というものがありますが、これは「未来に競争で勝つためのビジネスデータ活用」の視点から見ると、「弱い」と言わざるを得ないと思います。MECEは初期の仮説の構築には役立ちますが、ツールとしてはそれが限界だと感じるからです。今回は「それはなぜか?これに勝るものはあるのか?」について綴りたいと思います。

 

ビジネスデータ分析を行う立場から見た「MECE」

ビジネス指南書にだいたい『ロジカルシンキング』の話が出てきます。そして、ビジネス書には様々なフレームワークの解説や活用例が紹介されており、「まずはフレームワークにあてはめていきましょう」といった文言が多く登場するかと思います。

一方、データサイエンスの解説本にはこのような単語が出てくることは、そうありません。(少なくとも、自分が読んできた数十冊のデータ分析、データサイエンスに関する書籍には出てきませんでした)
この両者の溝のようなものを埋めるためにこのブログを立ち上げた、というのもありますが、両者は位置づけすらはっきりとしていないので、なかなかひと言で表現できるものでもないです。

MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)は『もれなく、ダブりなく』という意味ですが、まず「MECEを考える人間の知識量によるところが大きい」という点で扱いづらい印象があります。そもそもこれを意識しておかないと、上手く使えません。
頭の良い大卒チームで構成された部署が作成するアンケートは、次にようになるそうです。

<ケース1>
…現在、お子様がお通いの学校等に該当するものをお選びください。(複数回答可)
・大学院生 ・大学生 ・高校生 ・中学生 ・小学生 ・幼稚園 ・保育園 ・乳児

また最近、某委員会会長が女性蔑視の失言があり辞任することになった、というニュースがありました。もし、御年83歳でこのような発言をしてしまったこの会長が次のアンケートを見たとしたら、問題点を指摘できるでしょうか?

<ケース2>
…性別をお答えください。
・男 ・女

MECEが現在を超えて未来で勝つほどの道具にならない理由

まず<ケース1>ですが、予備校生やフリースクール、中高一貫、通信制、留学はどういう扱いにするのでしょうか?これについてはさらに有識者を増やして選択肢を増やせば、あらゆる選択肢をもれなく拾うことができると思われますが、回答者の負担はますます増える一方になってしまう、というジレンマを抱えることになります。

次に<ケース2>ですが、これは昭和時代であれば普通のことだったかもしれません。しかし2021年(令和3年)現在、この選択肢だけでは「弱い」ですよね。せめて「・その他」「・どちらでもない」あたりを入れ込みたいところですが、問題はそこではありません。問題は『いくら論理的にもれをなくしても、移りゆく時の流れを超えられることはない』ということです。

これらをまとめると、MECEは結局のところ『対象は過去から現在に限った情報を整理するツールなので、未来に備えようとしている場合、特に競争に勝つためのツールとしては弱い』ということになります。

 

二項対立とMECEの相性の悪さ


さらに、MECEで考えたとき、その対象が「2値」の場合、二項対立がやっかいな働きを見せます。先ほどの男女の選択肢の例がその代表例です。他のケースだと、典型的なのは『文系・理系』です。文系か理系か、というのは確かに二個対立の関係になっているといえばそうですが、人間の集団をタイプ分け(グルーピング)したり、ある人間を「どちらのタイプだろう」と考えてしまうのは、かなり機会損失になっていると思われます。

これらに共通するのは、「目に見える特徴や経歴から判断されること」と「実質どうなのか」が曖昧になりがち、という点です。

血液型占いや十二星座占いで考えてみる

血液型はA・B・O・ABで、十二星座は誕生日で自動的に何座か決まりますので、この分け方はまさしくMECEです。しかし、「これをビジネスデータ分析に積極的に使おう」となると、違和感しかないと思います。それは、「ビジネス、例えば何かを買うとか買わないに血液型や誕生日が関係あるのか?」という疑問があるからですし、その疑問は正しいです。血液型は身体的な特徴とも考えられますし、十二星座は人間が勝手に作ったグループでしかありませんよね。すると、「人間が勝手に作ったものではないグループとは何ぞや?」となりますが、これぞまさにデータを使って客観的に行うことが望ましいのではないでしょうか。

 

未来に備えるための方法は?

MECEは、『現状の整理・ひとまずの仮説構築』には役立つことは間違いないです。しかし「フレームワーク的に使って終わり」ではもったいないので、少し違ったイメージを持つと未来につなげるための足がかりになると思います。

1.はみ出る部分を作っておく

MECEの図はよく100%何かで埋まった図形で説明されますが、これは「自社が関わる範囲=自分の分野の範囲」を図形で表していることになっています。そこで、もうひと回りかふた回りほど分野の範囲を広げてみることにします。すると、『自分の分野に後々影響が出てきそうなグループが、いま見える範囲外に存在し、何かが起こっている』ということを意識していることになり、これが現在の限界を超える可能性になります。

例えばPCやネット環境があまり普及していなかった頃を想像すると、当時はインターネットの登場、SNSの登場、といった、今までなかったサービスの登場により、当時では考えられなかった顧客層が増えることになったはずです。

つまり『自分の分野では当然該当者0だが、新たなグループが増えるという前提で想像する』ということです。

 

2.変化の兆しが見える他業種の例を知る

これは実は無意識に行っていることだと思います。産業や業種は様々ですが、特にテクノロジーを駆使して新しいサービスをトライアルで開始した、といった事例は「何か良い結果につながる仮説に基づいたモデルを検証するために行っていること」であり、それは『その業種に限った良いモデル』ではないかもしれないのです。

よく無人コンビニの実証実験なんかの記事を見ますが、これはコンビニ業界だけで完結する話なのでしょうか?未来永劫、BtoCだけで有効なモデルなのでしょうか?

自分の分野以外でモデルが見えたら、自分の分野でも同じモデルが出てくると仮定して、まずは頭の中だけでいいのでシミュレーションすることが大事です。無理なら無理で、それで良いです。「可能性を探してみた」ということ自体が限界を越えようとした証であり、脚力がUPしたことになるからです。

その脚力を鍛えるために具体的にはどのような行動ができるのかというと、ニュースなどを見て情報にアンテナを張ること、そしてもう少しだけ想像を膨らますこと、これだけです。

 

まとめとデータサイエンス分野で関係する部分

今回はMECEがツールとしてどのようなものなのかを深く考察してみました。あくまでMECEは現状の理解に留まっており、少なくともMECEに当てはめるために何かフレームワークをこねくり回して時間をかけていては、未来につながる施策の種を育む時間を浪費していることになり、費やした時間は無駄になってしまうでしょう。

これを客観的に処理するには、やはりデータを活用することが有効です。具体的には、決定木分析や主成分分析(による変数の削ぎ落とし)とクラスター分析を複数回やってみると、そもそもMECEによるロジカルシンキングを経由することなく、上手く行けば機械学習を用いたモデル構築まで進むことができます。
(こういったことから、データサイエンスの書籍にMECEやフレームワークの話が出てこないのかもしれません)

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